銀婚式に三人で

第04回 2000年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:文具販売店勤務

記事(紹介文)


 私は文具を販売するかたわら、店頭でお客様から依頼される賞状や挨拶状等の筆書きをするいわゆる「筆耕」という職種についている。3月から6月ぐらいまでは、年度変わりのため、1年で一番忙しい時を迎える。そんな中で昨年あったお客様との心温まる出会いを、今でも時々、賞状を書きながら思い出すことがある。
 その日は朝から賞状の仕事に追われ、休息もままならずに仕事に没頭していた。すると、私をのぞき込むように「すみません」と突然声をかけられたので顔を上げると、20歳ぐらいであろうか、3人の青年が立っていた。「いらっしゃいませ」私が立ち上がると、青年の1人がジーパンのポケットから、くしゃくしゃになった紙切れを差し出した。「父と母の銀婚式が明日なので、感謝状を贈りたいんです。書いていただけますか?」と尋ねる。
 見ると、両親へのプレゼントであろうか、ピンクのリボンで結ばれた大きな包みを小脇に抱えている。受け取った紙を広げて目を通すと「感謝状。お父さん、お母さん、今日まで僕たち3人をどんな時も見捨てず育ててくれてありがとうございました。本日、銀婚式に当たり感謝状を贈ります。これからも今まで通りによろしくお願い致します。兄弟一同」と書かれているのである。
 様々な賞状を書いている私だが、こんなに簡潔で心温まる賞状には初めて出会った気がしたので、思わず微笑んでしまった。「ご両親、きっとお喜びになられますね。今日の夕方までに、お書きしておきます」と言うと、長男であろうか、私の仕事の山をのぞき込んで心配そうに私を見つめている。「大丈夫ですよ」と笑顔で答えると、3人そろって帽子を脱ぎながら、「ありがとうございます」と深々と頭を下げて清々しい笑顔で帰っていった。
 なんて良い子供たちだろうか! 私は、忙しくても引き受けて本当に良かったと心から思った。兄弟で両親に感謝状を贈る、その優しさに胸が熱くなるくらい感動し、その余韻にしばらく浸っていた。
親子断絶と言われる昨今だが、3人の兄弟を見てまだまだ捨てたものではないと痛切に感じた。彼らのご両親はうれしそうに賞状を飾って下さったであろうか。一役買った気でいる私は、そう願わずにはいられない。

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