年度別受賞作品
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全力プレイをモットーに

第04回 2000年度 受賞作品
入賞作品
作者名:大熊隆士
所属企業:㈱ワシントン靴店 南越谷店

記事(紹介文)

 
 休日の夜、テレビでプロ野球のナイター中継を見ていた時のことである。 <常に全力プレイ>がモットーの人気選手が、ヒーローインタビューを受けていた。間一髪の内野安打が決勝タイムリーになったのである。アナウンサーの「いつも全力ですね」の問いに、「今日、球場に来ていただいたファンの方に見てもらうのは最初で最後かもしれませんから、手を抜くなんてできませんよ」。と答えた姿はとても清々しく、今まで以上にこの選手のファンになった。
 サマーセールを目前に控えた6月の終わり、店内は準備に追われ、バタバタしていた。20代後半と思われる女性のお客さまが、サンダルを何足か試し履きしていた。「履き心地はいかがですか」と声をかけると、「なかなか合う靴がなくて」と困っている様子だった。お話を聞いてみると、甲が薄く、指が長いため、指先が前に出てしまうとのことであった。甲の部分を調節できるタイプをお勧めしたが、デザインが気にいらないようで、「やっぱりこういうのになっちゃうのね」とため息をついていた。
「ご調整してみましょうか」と言うと、「そんなことできるの」と、うれしそうに、好みのデザインを何足か選ばれた。私はその中で一番足に合いそうな商品を調整して合わせていただいた。「まだちょっとゆるいみたい」。調整し直してみると、「今度は甲がきつくて」。2度3度調整するうちに、接客を始めてから、すでに1時間が過ぎていた。そのうちに夕方になり、店内も混み出し、私は<早く終わらせないと>という気持ちが強くなっていった。
 「ちょっと窮屈だけど、革だから伸びますよね」とお客様が言われ、<やっと終わった>と思ってお客様の顔を伺うと、満足しているようには見えなかった。その時、あの野球選手の言葉が、ふとよみがえってきた。<このお客様と会うのは、最初で最後かもしれないのに、わたしは全力プレイしただろうか>。そう考えると、自然と言葉が出ていた。「もしお時間があるのなら、もう少し調整させていただけませんか」。もう一度、詳しく違和感のある部分をお聞きし調整すると、「今度はピッタリです。とても履きやすい」と喜ばれ、私もうれしくなった。終わった時には2時間近くたっていた。
 「こんなに丁寧にしていただいたのは初めてです。ありがとうございました。」お客様にお礼を言われ、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。「お時間をおかけして申し訳ございませんでした」。お客様を見送ったあと、これからはいつも「全力プレイ」ができるように頑張ろうと思った。

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