今知っておきたい親切な店

第04回 2000年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 私はホームヘルパーをさせていただいておりますが、時々遠くの店まで買い物のお手伝いをすることがあります。お年寄りの方は、昔なじみの店に行くことが楽しみなのです。
 その日、Tさんがお孫さんの成人式のきものを買いに行くのに付き添ってまいりました。地下鉄を降り、ゆっくりと歩かれるのですが、どのエスカレーターが安全であるかを知っておられます。トイレの場所にも詳しいのには驚きました。
 商店街に出ると、目は生き生きして、「この店もあの店も、昔のままですよ。でもこのブティックは、昔は確か眼鏡屋でしたから変わったわね」と、ご不自由な足を止めて説明をしてくださいました。
 老舗の呉服屋に着くと、ご主人が待っておられて、私たちは奥の和室に案内されました。そこには、ご主人のお母様で、Tさんと同年輩の和服が似合うご婦人がいらっしゃいました。
 「ようこそ、お待ちしておりました」「お子さんも立派になり、安心ですね。昔はどこの店も2階に家族がいて、賑やかでしたね。今は郊外に住んでおられるとのこと、ガーデニングを楽しんでいらっしゃるのでしょう」「それが、なかなか隠居できません。できるだけ店に出るようにしています。この子は車で来ますが、私は電車で来るようにしています。電車の中で、みなさんが着ていらっしゃるお召し物をを見るのも勉強です」。「そうですわ。私も買い物で外出しないと時代遅れになります」。
 ご主人がTさんにお孫さんの反物を選んでこられました。僅かな時間で、お二人は決めてしまわれました。「おふたりさんにも、仕立て上がりの物を出してみましょう。袖を通してみませんか」。私たちはしばらくの間、モデルのような気分で次々と着るのを楽しみました。店のご婦人は、Tさんが身体がご不自由で和服を着ることがないのを知っていて、楽しませてくださったのです。そして、なじみでない私にまで着るよう薦めてくださったのです。
 半年後に、その店から浴衣の案内が参りましたので、早速、Tさんに話したところ、Tさんにも手紙が来ていました。そして連絡すると、ご主人が遠くまで車で迎えに来てくれたのです。ふたりでお礼を言うと、「先日はご不自由とは存じませんで失礼しました。あの日、母と話したのですが、これからはお年寄りのことを大切にしないと、私たち商売人も大変なことになります」。
 私もやがては、介護を受ける身になるかもしれません。そのときのために、元気なうちに、親切なお店を多く知っておかなければならないと、しみじみ思っています。

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