心をこめればきっと通じる

第01回 1997年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 私の家の近所に、うまい焼鳥屋がある。その店は、街道沿いに出来た郊外型酒量販店の片隅で営業している。つまり、正確に言えば店ではなく、屋台なのだが元々は鳥肉屋だというそのおやじさんは、マーケティングを兼ねて土日のみ営業しているらしいが、実に営業熱心だ。また焼き鳥の味のバリエーションも大変豊富で、塩だけでもなんと7、8種類あり、びっくりする。初めて訪れた私に「おねーちゃん、これ食べてみて、どんなスパイスが使っているか当ててみて」とハーブ入りの塩で焼いてくれたつくねを一本タダでくれた。ウマイ。味を占めてまた訪れた。
顔を覚えていてくれて「また来たね、次はこっちの味をみてよ」にっこりとまた1本…。私はこの店のとりこになってしまった。うまくてサービスがいい、繁盛するのは当り前だろう。ここがはやるのは、親父さんの笑顔がいいからだろう。
私は画材の販売に数年携っている。何もないところに形のあるものをつくり出すから何かをつくり出していく人々の世界の一端を担っているという誇りと自負が私にはある。なぜなら、今日お店でキャンバスを買っていった学生が、やがて世界的画家(!)になるかもしれないのだ。そして、彼らのために何かしてあげたいと本気で考えている時、私はほんの少し幸せな気持ちになる。
 サービスの本質はきっと愛情なのだ。自分の扱う商品に対する愛情、それを使うお客様への愛情。相手の気持ちになって考えることの大事さは、解ってはいるもののつい忘れがちになるが、私は最近、あの焼鳥屋の親父さんの笑顔に出会って確信した。お客さんがうまそうに焼き鳥をつまむ姿を見て、親父さんはきっと幸せを感じているに違いないのだ。
形には残らないものに心をこめて何かをする…サービスという行為は、子供や夫の笑顔のために愛を込めて料理をつくる母親の無償の行為に似ている。
 販売員としての私には、一人忘れられない職場の先輩がいる。独立してデザイン事務所を開くというお客様が、デザインや画材をまとめて購入してくれた時のことだ。その先輩は、納品前日、定規やコンパス等、商品ひとつひとつを丁寧に拭いていた。私が理由を尋ねると、なんともいえない笑顔で「ほこりのついた道具で船出させるわけにはいかないからね。」と言ったのだった。
 他人の目には見えない行為に心を込められるかどうか、そしてそれに喜びを感じることができるかどうかが肝心なのだ。焼鳥屋の親父さんも私の先輩も、きっとお客様の喜ぶ顔がそのまま彼らの喜びなのだ。だからあんなに幸せそうなのだろう。そんな人たちに出会えたことを私は感謝したい。そして、心を込めればきっと人に通じると私は信じている。


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