年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
作品ジャンルで探す
作品カテゴリーで探す
キーワードで探す
各記事には関連キーワードを設定しています。
自転車・メガネ・子供・感激…などキーワードを入力してください ※複数は(カンマ区切り)

お弁当と記念撮影と

第05回 2001年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:平山美奈
所属企業:㈱リオグループホールディングス 天神コア店

記事(紹介文)

 
 私が販売の仕事について6年目になります。ど素人から中堅の販売員になれたのは、もちろん私自身努力したこともあります。しかしそれ以上に、固定のお客様がいたお蔭で仕事もがんばれたし、お客様に大事なものをいただいたと思っています。ここで、お客様と私の心温まる2つの話をしたいと思います。
 もう4年のおつきあいになるお客様がいます。3人の子供さんがいるお母様で、いつも土曜日の朝に来店されます。家が定食屋さんということもひとつの話題で、いろいろな話をしてきました。ある日、来店予定の日のいつもの時間になっても来られなかったので、お電話をすると、「後で行くよ。今日ね、本当は平山さんと店長にお弁当作ってあげようと思ってたんだけど、用事が入ってできなかったの、今度作ってきて上げるね」と。びっくりすると同時にうれしさでいっぱいになりました。
 次の土曜日のいつもの朝、「お弁当作ってきたよ」と、わざわざそのために来店されたのです。「こっちが店長ので、こっちが平山さんのね。お弁当箱は来週取りにくるから」と言って帰られました。中身を見ると、おいしそうなおかずがずらりと並んでいます。玉子焼きに、エビ、お肉を煮詰めたものなど、もちろんとてもおいしくて、温かい味で、心の奥まで温かくなりました。でも、店長の方がエビが一匹多く入っていたのがちょっとくやしかったです。私とお客様とのきずなで出来たお弁当物語。絶対に忘れません。
 10月のそろそろ肌寒くなるころ、5人のお客様が来店されました。よくよく話をしてみると鹿児島県から修学旅行で福岡に来た養護学校の生徒さんたちで、先生方2人に引率されながらお買い物に来られたのでした。そのうちの1人の子が花柄のシャツを気にいってくれて、それに合わせてスカートをお勧めしました。フィッティングルームで着替えられている間に、別の生徒が一生懸命に私に話し掛けてくれました。握手を求めてこられたりもして、私も一生懸命答えました。とても喜んでくれて、「ありがとう」と照れながら言ってくれました。
 試着が終わり、フィッティングルームから出てこられてきて、とてもかわいいとみんなで言っていると、先生がこっそり私に「おこづかいが足りないので写真だけでも撮らせてもらえませんか」と尋ねてこられました。私は先生のこの優しい気持ちに心を打たれ、快くOKしました。「じゃあ、お姉ちゃんと一緒に記念に撮ってもらおう」と先生がおっしゃり、私は一緒にピースサインをしました。写真を撮り終わると、その子が私に「ありがとう」と言ってくれました。うれしくて涙が出ました。帰り際、みんなで「ありがとう。バイバイ」と大きな声で言いながら店を出られました。修学旅行で福岡に来て、きっとたくさんの楽しい思い出を作って鹿児島に帰っていかれたことでしょうが、店でのこのできごとも忘れないでいてくれたら、私はとてもうれしく思います。
 接客という仕事は、私たちがお客様に買いやすい空間とゆとりを差し上げることだとよく言われますが、私は逆に、たくさんのお客様からゆとりという大事なものをもらい、そしてまたお客様にゆとりを返すものだと思っています。それを繰り返すことで、私も成長してきました。ゆとりを上げ過ぎたら、自分の中に穴が開いてしまいます。この空間をお客様が埋めてくれます。大事なもの、それは私とお客様の間で作り上げた「ゆとり」だと信じています。

タグ(関連キーワード)

コンセプト 審査委員長紹介 お問い合わせ 日本専門店協会サイト プライバシーポリシー
Copy right (c) Japan Specialty Store Association All Rights reserved 2009.