年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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心の扉をひらいて

第05回 2001年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:靴販売店勤務

記事(紹介文)

 
 入社して3年目の頃、いつもと変わらず一組の母娘が来店されました。接客につくと少し様子が違い、お母様は身振り手振りで口を大きく開け、ゆっくりとしゃべっていました。
お嬢様は耳が聞こえないようです。私が説明したことをお母様が簡単に言い換え伝えてくれました。手話は使っていなかったので、口話で伝わることはわかりましたが、どうしていいかわからず、お買い上げ頂きましたが、結局お母様を通しての接客でした。直接お嬢様と関わりたい、また来店されることを願いお見送りしました。
 その後何度か来店して下さり、回数を重ねることに少しずつですが声を出してくれるようになりました。それでもまだお母様に向かってです。『絶対聞きとって、直接私に話してくれるようにしよう』そう心に決め接客についていました。 
「以前お買い上げ頂いたお靴の調子はいかがですか。痛い所などなかったですか?」 お母様のまねをして、大きく口を開けゆっくりと話しかけました。「大丈夫」。ゆっくりと私に向かって言って下さいました。『少しかもしれないけど、心を開いてくれた。もっと話ができるようがんばろう』。とてもうれしく思いました。聞きとれない時はお母様に頼ってしまいますが、あまりお母様を通さなくても話ができるようになり、以前よりも来店されるようになりました
 その後、違う日に来店された時、お母様が「ちょっと下の階見てくるから」と一言。「うん」。いつもだったらダメだと怒るのに今回は違いました。私がビックリしていると、お母様が「お姉さんならいいんだって。ねっ」 お母様を見ると笑顔でうなづいてました。うれしい反面、緊張が走りました。『ここで私が言っていることがわからなくなったら、やっぱり誰かいないとダメなんだと悲しい思いをさせてしまう。
 絶対そんな思いをさせてはいけない』必死でした。お嬢様と2人して身振り手振りで時間はかかりましたが、たくさん話ができました。足が細いため、調整しないと合う靴が少ないことなど直接伝えられました。靴が決まり、調整をしてお渡しする時、「時間かかってすみません」と言うと首を横に振って「ありがとう」と笑顔で帰っていかれました。
 高校生だったお嬢様も今では社会人になり忙しくて来店されることも少なくなりましたが来店された時はいろいろな話をしてくれます。お客様の声に真剣に耳をかたむけることの大切さをあらためて痛感しました。
 気持ちは伝わる、そのことを忘れずお客様を笑顔でお迎えしていきます。

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