年度別受賞作品
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販売員としての「心」

第05回 2001年度 受賞作品
入賞作品
作者名:福成隆彦
所属企業:㈱銀座ヨシノヤ 小倉井筒屋店

記事(紹介文)

 
 14年程前のことです。夢を見ていました。知らない街、知らない店、初めて見る風景の中で接客をしている自分がいます。店の中にはたくさんの靴が並んでいて、その店には1人のお客様がいました。私は笑顔をつくり商品の話を始めます。私自身がとても気に入っている靴があり、その靴を一生懸命すすめていますが反応がありません。『こんなにいい靴なのにどうしてわかってくれないのだろう』と、心の中で思いながら接客を行なっています。際限なく言葉を重ね、声を大にしてもそのお客様は遠くを見る目で私を見ているだけです。言葉が伝わらないもどかしさの中、さらに大きな声を出した瞬間に目が覚めました。
 大きく息をすると、朝の日差しの中で、ぼんやりと昨夜の夢を思い起しながら、1日が始まりました。店に出て接客をするのですが、何となくうまくいきません。まるで夢の続きを見ている様な気分になっていました。そんな感じの日が2日程続いた日の午後です。初老のご婦人のお客様が来店されました。どことなく今は亡き祖母の面影を持っていて、笑顔の素敵な方でした。自分の祖母に靴を選ぶつもりで接するうちに、様々な話を聞かせていただいて、その中で今度のご旅行に履いて行かれる靴を一足選んでいただき、とても喜ばれて帰っていかれました。
 それから10日程が過ぎ、先日のお客様が笑顔で来店されました。まずお買い上げの靴が履きやすかった事、お連れの方からもほめられたことに対してのお礼を言われ、それによって今回の旅行がとても思い出深いものなったと、とても喜んでいただきました。そして最後に「あの日、他の店も見たけれどあなただけが私の気持をわかってくれた」と言っていただいた時、とても満たされた気持ちになりました。と同時に先日見た夢の意味がわかった様な気がしました。
 それ迄の私は、自分がされてうれしいことはお客様もうれしいことと思い込んで、サービスも一方通行になっていたのかも知れません。自分がどのように思うかも大切ですが、もっと大切なことは、お客様がどのように思われ、どのように感じているか、ということに気付きました。あの夢は、日々の接客の中で売ることに慣れてしまい、接客技術は向上したものの、相手のことを考える『心』をどこかに置き忘れてしまいそうになっていた、自分に対しての戒めであったのかもしれません。
 お見送りするお客様のうしろ姿が振り向いて笑顔で、そして深々とお辞儀をされた時、私はもう一度大きな声で「ありがとうございました」と呼びかけながら、その時初めて夢から覚めたような気がしました。

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