年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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焼き肉屋のおネエちゃん、永遠に

第05回 2001年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 「焼肉定食750円。ライスとキムチは食べ放題」―とにもかくにも腹が減って仕方がないとき、ぼくはよくその焼肉屋に通う。「はい、何名サン? 3名やね?よっしゃ、すぐソコのテーブル空くから待っててや。ご飯はあそこのおひつから、どんどん勝手によそってね。お次は何名?ハイ…」。威勢のいいおネエちゃん、関西弁を駆使して、次々来る腹ぺこ客を手際よくさばく。「ゴメン、ちょっと混んできたから、相席で。えっ、もう食べ終わったン? 毎度ーッ」。満席時の、食べ終わった客を帰らせる術はそれはそれはもう芸術的で、客のほうも、「ネエちゃんにそう言われたら、帰らにゃしゃあない」。 お昼どきのラッシュアワーが、実にスムーズに気持ちよく回転する。
 そんな彼女の姿が、ある日、店から消えた。〈やめたのかな?〉 久しぶりに訪れた焼肉屋は、待時間が格段に長くなっていて困ったのだが、数日後、ぼくは思いもかけぬところで彼女と再会する。場所は、駅前にある全国チェーンのハンバーガーショップ。「見習」のバッジをつけた彼女、ぼくを見てカウンター越しに顔を赤らめた。
 そして、今まで聞いたことのないような小声で、「いらっしゃいませ。こちらで…お召しあがり…でしょうか?」。舌をかみそうなたどたどしい標準語と、ひきつりそうな笑顔をくれるではないか。「は、はい。チーズバーガーをひとつ、ここで」ぼくのほうも、なぜかどもっちまう。「それでは、先に、お会計を…1000円札からで、お釣りが…ありがとうございました。ごゆっくり、おくつろぎくだ…」、ここまでマニュアルどおりの言葉で対応してきた彼女だったが、とうとう耐え切れなくなってか、「プッ」と吹き出してしまった。「かんにん…ウチ、アカンわ、やっぱり」。
 そして今。彼女は元の焼肉屋の元気なネエちゃんに戻っている。「カワイイ女の子しようと思ったのになぁ…」。慣れた手つきでコンロに火を入れるさまは自然で、言葉も笑顔もなめらかだ。ご飯、どんどんお代わりしていってや。けど…混んできたら相席頼むネ」。ウインクを一つ。次のテーブルへとひらひら飛び回る姿を見ると、なぜか安心してまた来ようと思ってしまう、常連のぼくである。

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