年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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家族アルバム

第06回 2002年度 受賞作品
優秀賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 つい先日、私は故あって職を失った。サラリーマン生活20年を目前にして初めての経験。この不況のさなか、妻子4人を抱えて不安だらけの再就職活動が始まったのである。
 面接の準備を進めるうち、履歴書に添付する顔写真を用意する段になり、ハタと迷った。わが家では毎年、近所の写真館で家族そろっての記念写真を撮り続けている。履歴書写真の撮影にわざわざ馴染みの写真館に足を運んで、失業の経緯を説明する羽目になるのも少なからず気が引ける。別の写真館へ行くか、それとも街角のスピード写真で済まそうか…。
 その写真館を訪れるようになったのは、結婚を機に、今後の人生のささやかな記録になればとの思いで、妻と2人で立ち寄ったのがきっかけである。その日、愛想良く対応に出たふっくら顔のおばちゃんは、私たちをスタジオに案内すると、手際良くカメラの準備を始めた。まさかとは思ったが、案の定、当のおばちゃんが店主なのであった。「ご主人は脇役ね。素敵な奥さん中心で写しましょ」と、終始その場の雰囲気を和ませながら、おばちゃんはシャッターを押し続けた。
 楽しい女店主の人柄に惹かれ、以来10年余り、毎年お世話になることに。その間、3人の子供たちのお宮参り、七五三、入園・入学、とわが家の記念日には必ず立ち会って頂いていることになる。考えた末、私はおばちゃんの店で履歴書写真を撮影してもらうことに決めた。おばちゃんに会うことで、今の重苦しい気持ちを晴らすことができるような気がしたからだ。
 何日かぶりのスーツに着替え、店を訪ねる。1人での訪問に驚きながらも、おばちゃんは矢継ぎ早の質問を私に浴びせ、すっかり私の事情を悟る。撮影を終えると、満面の笑顔で「就職、きっと大丈夫」、と一言。
 やっぱり来て良かった。
心強い激励の言葉を噛み締めていると、おばちゃんが立派な装丁の1冊のアルバムを手渡してくれた。それは何と、これまでに撮影したわが家の家族写真を1冊にまとめたものだったのである。全く予期せぬ贈り物に驚く私に、おばちゃんはさり気なく答える。
 「毎年来て頂いて本当にありがとうね。記念になればと思って作ってみたの。ちょうど連絡しようと思っていたところだったのよ」。家に帰り、ずっしりと重いアルバムのページをめくる。家族の笑顔が並んでいる。カメラの前で愚図ったり、コチコチに緊張していた幼い日の子供たちは、おばちゃんにご機嫌を取ってもらいながら写真に収まった。そんな子供たちが、すくすくと立派になっていく。
 今年はどんな1枚が加わるのだろう、と想像した時、ふと自分の中から再就職に向けての熱いエネルギーが湧き出てくるのを感じた。
おばちゃん、こちらこそ本当にありがとう。そして、これからもどうぞ宜しく。

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