スロープ

第06回 2002年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 今年の2月、私たちの店は全面改装しました。スタッフ全員が夜遅くまで残り、商品の箱詰め、什器の解体。何もなくなった店内は、まるで小学校の体育館のように、広々としていました。約1週間の工事が終り、オープン準備のための初出勤。小学校の体育館は、見事に、明るくきれいなお洋服屋さんになっていました。
 真白い床に、真白い壁、ガラス板の什器に、明るい照明…。目が慣れるまで、チカチカしました。透明感のある店内にうっとり。山ほどある商品出しにげっそり。けれども、私たちスタッフが一番何よりも感動したのは、店の入口に付いたスロープでした。私たちの店は路面店で、5、6段の階段を下りるようになっています。ですから乳母車のお客様や、車椅子のお客様は、店に御来店される際、持ち上げて降ろさなくてはなりませんでした。
 山ほどあった商品出しをなんとか終え、感動のオープニングセール。多くのお客様がスロープを通ってご来店。今までなかったスロープに「すごぉい!」との声をいくつも耳にしました。乳母車を押すお母さんたちが、スムーズに御来店されるのを見て、私はとてもうれしく思いました。その中に、以前からよく来て下さるお客様もいらっしゃいました。いつもは私とお母さんが二人で、お子様の乗った乳母車を降ろしていたのですが、その必要がなくなりました。「これ(スロープを指して)付いたんだね。すっごく助かる」と喜んでいらっしゃる様子。私たちは、そんなお客様の反応に大喜び。スロープは、付ける位置に最後までこだわった、店長の自慢でした。
 セールも落ち着いたある日、1組の車椅子の親子がご来店されました。車椅子に乗っているお嬢さんと車椅子を押すお母さん。ゆっくりとスロープを下りて来ました。私は、無事に降りるのを見届けてから、声はお掛けしませんでした。ゆっくりとお二人のペースで店内を見ていただきたかったからです。ただ、レジの際は、小回りの利かない車椅子では大変だろうと思い、商品と代金をお客様から受け取ってから、レジへ持っていきました。お釣りと商品をお渡しする際、お母さんが声を掛けて下さいました。その言葉が、私は今でも忘れられません。
 「ありがとう。あれが付いたから、入ってもいいかなと思って」。車椅子を押して店に入るのは、遠慮していたと言うのです。私はとてもショックでした。車椅子の方がそんなふうに気を使っていたなんて、考えたこともなかったからです。きっと今までも、いろんな店に入るのをためらうことがあり、特に、改装前の私たちの店には入ることをあきらめていたのでしょう。私はとても胸が痛くなり、また、今回スロープが付いて本当に良かったと思いました。スロープのおかげでお客様の気持ちが楽になり、お買い物を楽しんでいただけたのです。お客様との心のやりとりまで、スムーズにしてくれました。
 最近、以前にも増して、乳母車を押すお母さん達を店内でよくお見掛けするようになったと、スタッフ同士で話し合いました。車椅子のお客様は、まだちらほら…。けれど、そういうことを気に掛けるようになったのは、あのお母さんの言葉があったからです。笑顔で気持ちを素直に伝えて下さったからです。大切な事を気付かせてくれました。
 この度、私たちの店のスロープは〝人に優しいスロープ〟として、広島本通りより賞をいただきました。改装を経て皆でつくったこの店に、多くの方に来店して欲しい。スロープはそのための第一歩だと思います。まだまだ努力は必要ですが、いろんな人に開けた店でありたいと思っています。通りから店内へ、お客様を導いてくれるスロープは、私たちの店の自慢です。

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