年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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言葉の壁

第06回 2002年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:鞄販売店勤務

記事(紹介文)

 「結婚式行くがに、ちょっこいいがないが?」
私は、名古屋生れの名古屋育ちで根っからの名古屋人です。そんな私が富山県の高岡市で働くことになったのが22歳の頃でした。販売員として、富山では老舗の鞄専門店に勤務することになりました。
 学生の頃からアルバイトで接客業には慣れっこの私。知らない土地での接客業も大丈夫、と高をくくっていました。鞄の充分な知識もなかった私でしたが、雑誌や会社でもらった資料などで勉強し、準備万端!
 そして勤務初日。少し緊張していた私でしたが、なんとかなる!と思い、自分からお客様に声をかけていきました。順調に時間が過ぎていき、閉店間近、1人のご婦人が私に声をかけてきました。「結婚式行くがに、ちょっこいいがないが?」その話し方は、怒られているかのように早口で、強い口調だったのです。その上、言葉の意味も解らず、一気に舞い上がってしまった私をフォローしてくれたのが店長でした。
 「すみませんねぇ、この子今日が勤務初日で、名古屋から来て間もないんですよ」と、そのお客様に説明してくれたのです。元々店の常連様だった御婦人は、「なまりが強くて話が通じんかったやろう?」と、少しゆっくりめに優しく言ってくれました。近々結婚式があるので、その時に持っていくフォーマルバックが欲しいとのことでした。私は動揺を隠しながら、丁寧に接客しました。そしてバッグも決まり、帰り際お客様が私に、「ありがとえ。がんばりぃよ」と声を掛けて下さいました。先ほどまでのあせりと動揺がすーっとなくなり、心から「ありがとうございました!」という言葉が出たのです。
 知らない土地での言葉の壁。この時私は接客業の難しさを身をもって思い知らされたのです。と同時に、接客業の楽しさも知りました。それからの私は、一生懸命高岡の方言を覚え、積極的に自分からお客様に話しかけることにしました。そしてその結果、すっかり高岡弁をマスターし、言葉の壁を乗り越えることができたのです。
 5年後の今、名古屋に帰ってきてからも販売員として働いています。売る物が鞄から靴に変わりましたが、接客業に違いはありません。今の職場に就いて間もなく、富山から名古屋に観光に来られた方が来店されました。すぐに私はお客様と意気投合し、楽しい接客をすることができました。そのお客様も「まさか名古屋で富山について話ができるなんて」と、とても喜んで下さいました。そして帰り際、「ありがとえ」と懐かしい富山なまりでおっしゃいました。富山での4年間で得た経験は、名古屋に戻ってきた今でも活かされています。
 言葉の壁は様々ありますが、必ず乗り越えられます。乗り越えた先に待っているのは、お客様の満足された笑顔、そして販売員の喜び、達成感です。だから私は販売員という仕事を辞められません!

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