年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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実家

第06回 2002年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:洋菓子販売店勤務

記事(紹介文)

 
 「いらっしゃいませ」「かしこまりました」「ありがとうございました」
 販売という仕事をしていると、この言葉を1日に何十回、何百回と使います。お客様が自社の商品を利用され、お買い上げいただけるからです。もちろん、自社商品に対するお問い合わせは、みなさん答えられるでしょう。
ではこういう質問をされた事はありますか。
 「私の家はどこ?」
ギフト商戦真っただ中のある日、いつものようにレジ周辺で、たくさんのお客様が並んでいるその中に、この質問をしたおばあさんはいました。
 「こちらでお伺い致します。恐れ入ります」。私はおばあさんを誘導しました。そして再び御用件を伺いました。返ってくる質問は一緒です。(他のお客様もお待ちだし、一段落してからまたお伺いするか)(いや、このおばあさんも並ばれていたのだから、この方の質問にお答えするのが先だ)
 私の気持ちは決まりました。それから、おばあさんの許可を得て、持っていたかばんを調べさせて頂き、ご住所の入った病院の診察券を発見しました。「○○市○○ですね。電車だと○○線が…」と私が答え出すと、急におばあさんは診察券を奪い取り、そのまま足早に去ってしまいました。そして翌日。
 「私の家はここですよ」。
私の顔を見ると、こう語ったのは昨日のおばあさんでした。何でも最近息子さんが家を出られて、一人になり、誰もおばあさんの質問に答えてくれなくなって寂しくなったとのことでした。それで、いろいろな所へ行っては、「私の家はどこ?」と聞いているそうです。
 「どんなに用事があっても、どんなに忙しくても、私の息子は質問に答えてくれた。ここにもそんな息子がいた。だからここは私の家よ」。
 素直にうれしかったです。そしておばあさんは自社商品をお買い上げになりました。おばあさんがお帰りになる時、いつもとは違う言葉を私は使っていました。
 「ありがとうございます。また実家へのお帰りをお待ちしております」。
おばあさんは手提げを持ち、息子に手を振り、歩き始めました。(今度はいつ帰ってくるのかな)と思いつつ、実家の母に電話している自分が幸せと感じました。

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