あなたのことが大好きです

第06回 2002年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:婦人服販売店勤務

記事(紹介文)

 
 54才の私は、仕事を始めてまだ8年しか経っていません。毎日が楽しく一日があっという間、ステキなお客様との出会い、楽しい会話、色々の分野のお話を聞くことができ、私は販売の仕事に就いて、自分自身が大きくなっていく様を感じています。人生の勉強もさせてもらっています。
 入社して間もなく出会ったお客様、耳が不自由なF様との出会いです。最初の頃は、メモを頼りに静かに、ただひたすら声も出さず、メモを書きながら読み、又書いていただくという販売でした。1枚ずつお買い上げいただいて、内金でお取り置き、給与が出てから残金をお持ちいただき、嬉しそうに洋服を持って帰られます。
 ある日、「北海道へ旅行するから、洋服を探して下さい」とメモに書かれました。寒いからレザーのコートや、色々揃えるとかなりの高額となり、支払いの時に私は考えてしまいました。そうだクレジットにしてあげようと思いメモに書き、カードのおすすめを伝えました。1回から20回までの支払い方法を解りやすくメモを片手に説明してさしあげました。そしてそのメモを読み終わると、何度も何度も頭を下げ、手の指で丸と形でサインを伝えて下さいました。後はFAXで信販と一時間程かかり、やり取りをし、無事終わりました。全て終わったことを、F様に伝えました。
 するとメモに「いつもどうしてこんなに私にやさしく、親切にしてくれるの」と書き、その字の上に指を置き、ひとつひとつ押さえて、ふっと私の顔を見上げました。その目には涙が今にも落ちそうにいっぱいでした。私はすかさずメモに、「私たちは、F様が大好きなの!」と大きな字で書いてあげました。とても嬉しそうに鼻をぐすぐすしながら微笑んでくださいました。私も涙が落ちそうになりましたが、私が泣いてはいけないと思いぐっと胸にしまい込みました。
 そして、F様の手を両手でギュッと握りしめ、つたない手話で「ありがとう」と大きな声を出して言っていました。そして、後に旅行の写真を見せるために店に立ち寄り、嬉しそうに見せて下さいました。その時揃えてあげた洋服をお召しになって写っていました。私も嬉しくその時のことを思い出し、幸せを感じていました。F様が帰られた後、スタッフが「本当にあの方耳が聞こえないのですか。店長の言っていることが聞こえているようですね」と言いました。
 今では、メモを頼らなくても、手を使い、目を使い、口を使っての販売、誠意が伝わり、私の言おうとしていることが、たとえ声が聞こえていなくても、F様には、わかっているのだと思いました。これからも心と心、人と人とのつながりで、お客様に信頼を得るように続けて行きたいと思います。
 これからの人生どんな辛いことがあっても、彼女の人生に比べたら辛いなんていうことはひとつもないと思います。「勇気と希望をありがとう」と今度は来店された時には伝えたいと思います。F様には、心を込め、感謝の気持ちで、ありがとうございますとお見送りするつもりです。

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