先輩のアドバイス

第07回 2003年度 受賞作品
入賞作品
作者名:白田 修
所属企業:㈱銀座マギー 本社

記事(紹介文)

 
 まだ誰もいない店に、仲間より少し早く来て「自分」と「店」に気合を入れるように掃除を始めるのは、私がこの店に配属されてから3年たった今でも、私の習慣というか、私なりの店との付き合い方のようなものです。販売という仕事に就いて自分でも驚くほど変わったことを実感しています。勿論、販売の経験のある方はご存知でしょうが、最初は「いらっしゃいませ」というひと言がなかなか出なくて、お客様から逃げるように引いてしまったものです。お客様との会話などは全くといっていいほど持てませんでした。
 入社して3ヶ月の頃、見るに見かねたのでしょう、ある先輩からこうアドバイスをされました。それは「お客様に教えて頂くつもりで声をかけるの」というものでした。そして「お客様が興味を持って手にされた商品のポイントを、必ず一ヶ所、できれば3ヶ所、慣れてきたら5ヶ所以上、即座に言えるようにしてみなさい」と言われました。その時は「そんなこと私には無理です」とだけ答えたのですが、先輩は微笑んで、「大丈夫、私もそうやってきたんだから」と言ってくれたことを覚えています。今思い返すとそのアドバイスは、それからの私に大きな影響を与えてくれた言葉でした。
 私が例のアドバイスを突然思い出したのは、思いがけない場所でした。それは近所の魚屋さんでした。いつも大きな声を張り上げているおじさん(多分ご主人です)は、その日こんなことを言っていました。
「今日は鯵がお買い得だよ!」
「安いだけじゃないよ。栄養もあるんだよ!今朝の新聞にも出てるよ!何とかてー、栄養分は牛肉の倍だー」
「そこの奥さん!たまには旦那に美味いタタキでも食わしてやんなよ!葱、茗荷、レモンを添えれば料亭と同じだよ!」
「一尾が○○円、安いよー!」「3尾で○○円にしておくよー!」
「さあ買った、買った!お買い得、お買い得!」
「焼津の近海ものだよ!焼いてよし、煮てよし、生でよし!新鮮だから請合うよ!」
「フライでもいいし、南蛮漬けなんかは最高!」
「そこの若奥さん!俺に見とれてると売り切れちゃうよ! 小ちゃい子どもにはハンバーグでもいいんだ! 生姜をちょっと入れれば臭みもなくなるよ! 大丈夫! 大丈夫! 絶対大丈夫! でも小骨を取るのを忘れちゃいけねーよ!」
 次から次に出るセリフ、習性であれアドリブであれ、商品の産地・価格・材料の特徴から料理のバリエーションまで、短時間に要領良く表現するおじさんを熱心に見入ってしまいました。
ひとつの商品にこれだけの情報量をつけられる。「これだ!」と思いました。常に商品ひとつひとつを自分の目で確かめておく。お客様に当店の提案する商品のストーリーを話せるようにする。今だからわかるということもありますが、基本的なことは大きく変わってはいないと思います。
販売という仕事が、単にものを売るということだけではないこと。店全体の雰囲気、商品を含めて店の信用や販売員への信頼、上手に表現する言葉が見当たりませんが、店そのものをお客様に気に入って頂くことができるかである、とおぼろげながらわかってきたところです。
私が扱っている商品は婦人服ですから、お客様はもちろん女性です。しかし、年齢や職業、また探している商品や、来店の目的も様々です。でも、いつも私は思います。
「数ある店の中から当店にお越しいただき、誠に有難うございます。朝から掃除をしてお待ち申し上げておりました。店内の商品に関することはどうぞ私にお任せください」と。そして私は、先輩からの言葉をもう一度しっかりとかみしめます。

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