小さな手から大きな贈り物

第07回 2003年度 受賞作品
入賞作品
作者名:広枝美樹
所属企業:㈱ザ・クロックハウス 三島店

記事(紹介文)

 
 母の日を間近に控えたある日、幼い兄弟のお客様がご来店されました。とても印象深く、今も私の心に残っています。
「あのう、3000円ぐらいで買える時計、ありますか」。幼い男の子と女の子が私の前にやって来て、男の子が大きな声で、そう言いました。年は、男の子が小学3年生ぐらい、女の子は小学校へ入学したばかり、といったところで、どうやら兄弟らしく、女の子はお兄ちゃんの右腕にぴったりと寄り添い、上目使いで私をじっと見ています。男の子はぐっと、真っ直ぐ私の顔を見つめています。
 私はその気迫に少し圧倒されながら、「誰が使う時計を探しているの?」と2人に聞きました。「ママ」。「そう。母の日のプレゼントかな?」。2人は頷きました。
 しかし、店には3000円という予算の腕時計はキャラクターデザインの商品しかなく、大人の女性には不向きです。2人は顔を見合わせて、困っていました。するとお兄ちゃんが、「あっちは?」と、目覚まし時計コーナーを指差しました。「そうね、目覚ましなら、(予算内で)ありますよ」。
 2人はたくさん並んだ目覚まし時計の周りをぐるぐると何度も回り、どれにしようか決めかねているようでしたので、私は予算に合った、いくつかのかわいらしい商品を一ヶ所に集め、アラーム音を聴かせるなどして2人に選んでもらいました。すると、お兄ちゃんがこう話してくれたのです。実は、母が病気で入院している。病室に時計がないので、ベッドの横に時計を置きたい。腕時計なら退院してからも着けられる。本当は腕時計の方が良かったけれど、お金が足りないから残念だ、と。
 それを聞いた私は、「目覚ましの方が大きいから見やすいし、ママがベッドに横になったままでも見えるでしょう。時計を見る度に起き上がるようであれば大変だから。退院しても毎朝使えるよ」と、一生懸命、目覚まし時計の良い所をアピールすると同時に、彼を励ましていました。「そうか」と彼はにっこり笑ってくれました。
 こうして決まった品物を私が包装している間、ずっと2人は、私の手元を見つめていました。私はその視線に緊張しながら、心を込めて作業しました。2人の母親が早く退院できますように、と願いながら。母親想いのこの兄弟に感心しながら。
 最後に、「ママ、きっと喜んでくれるはず。早く退院できるといいね。ありがとうございました」と言うと、お兄ちゃんが「ありがとうございました!」と返してくれて、ずっと人見知りしていたような妹さんもにこっとしてくれました。
 接客とは、お客様の〈心〉に接するということなのでしょう。お客様の身になり、心を聞いていただく。それがお客様の満足に繋がるのだと思います。もう、兄弟の母親は元気になったでしょうか。今度は、ぜひ腕時計を買いに来店していただきたいと思います。

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