俺の息子は、電気屋の浜ちゃん

第07回 2003年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 「俺の息子は、お前ではなく、電気屋の浜ちゃんだ」。
 これは、私の父の口癖である。年老いた父と母を郷里に残し、仕事の関係で愛知県に出ている私たち一家。月に1回は、心配だからと実家に顔を出している。その時に父は、皮肉たっぷりに私たち夫婦に言うのである。心の中では、(ごめんな)と思いつつも、「俺のことを忘れないでくれよ」と笑いながら相手をしている。父の言う「浜ちゃん」は、幼なじみであり、高校の同級生。地元に残り、電気店を営んでいる。父に聞いたことがある。
 「どうして、テレビや洗濯機を浜ちゃんの店で買うの? もっと安い店があるのに」。父は、答えた。
「壊れたときに、浜ちゃんは、すぐ来てくれるからだ。朝の6時でも夜の10時でも。先週の日曜日の夜、8時からのNHKの大河ドラマが終わってトイレに行こうとしたら、電気がつかない。困ってしまった。暗い中、年寄りが高い所に登って落ちたら大変だ。それで、浜ちゃんに電話した。すぐに来て電球を取り替えてくれるというではないか。いつでも電話して、とも言ってくれた。本当に嬉しかった。実の息子より頼りになるぞ」。このように言われては私の負けである。電球の交換のために車で片道3時間走ってくるわけにはいかない。地元の人間に任すしかない。
 浜ちゃんは、週に1、2度、家に顔を出し世間話をしていくという。用事があってもなくても、顔を見ないと落ち着かないと言うそうだ。年寄りの話し相手になることも仕事と考えているようである。浜ちゃんは村のことをよく知っている。私も郷里に帰ってくると、缶ビール片手に浜ちゃんと一杯飲む。ついでに村の情報をつかんでおく。次の日に父に向かって言う。
「小向の卓也君、結婚したね」。
「よく知っているな。いつから村のことが分かるようになった?」
「俺も、ここの生まれだからな。」と父との会話が弾む。浜ちゃんのおかげだ。
 浜ちゃんは、言う。「村には、お年寄りが多くいる。一番の楽しみはテレビを見ること。一番いい条件でテレビが見られるようにしてあげる。ハイビジョンに衛星放送、そして、ケーブルテレビと。お客さんの気持ちを考えて、商売をしている。村中のお年寄りが、俺の親父やお袋のようなものだ」。
 村人のことや村の将来について熱っぽく語る浜ちゃんといると元気が出てくる。こんな浜ちゃんに年老いた両親を任せて、私たち夫婦は今年も郷里を後にわが家に帰る。
「浜ちゃん、ありがとう。親父たちを頼むよ」。

タグ(関連キーワード)

コンセプト 審査委員長紹介 お問い合わせ 日本専門店協会サイト プライバシーポリシー
Copy right (c) Japan Specialty Store Association All Rights reserved 2009