年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
作品ジャンルで探す
作品カテゴリーで探す
キーワードで探す
各記事には関連キーワードを設定しています。
自転車・メガネ・子供・感激…などキーワードを入力してください ※複数は(カンマ区切り)

心からありがとう

第07回 2003年度 受賞作品
入賞作品
作者名:伊藤恭子
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 「いらっしゃいませ」店内に足を踏み入れると、どこの店もたいていこの声で迎えてくれる。
夏の暑い日、私はその強い陽射しに耐えかねて、サングラスを購入しようと母と2人でフラっと眼鏡店に入った。「いらっしゃいませ」いつもの声が店内に響き渡る中、私は目的の商品の所へ向かった。
 「種類がたくさんあって迷うね」「かけてみなさい。見てあげるから」。母とこんなやり取りをしながら、気になるサングラスを次々にかけては鏡を覗き込み、やっとの事で2つに絞り込んだ時には、20分以上経過していた。
 「スミマセン」私の呼びかけに店員がやって来た。「お決まりになりましたか?」「実は、まだ迷っていて…」そんな曖昧な私の態度に嫌な顔もせず、色々とアドバイスをし始めてくれた。さすがに母もじれったくなってきたらしく、「安いから2つ買えばいいじゃない」と私をせかし始める。ひとつ1500円。確かに安い。でも、私にしてみれば2つなんか必要ないし、実用性のあるシッカリした物が欲しい。店員を質問攻めにして根掘り葉堀りと聞いた後、やっとの事で決定した。
 「では、こちらにどうぞ」。店員は丁寧に私を誘導して、レジ脇の椅子に腰をおろさせた。「サイズを調整しますね」。そう言うと、私にサングラスをかけて、細かに調節してくれた。こうして私のサイズに仕上がったサングラスは、ケースも付けてもらい立派な一品となった。
「ありがとうございました。不都合があったら、小さな事でもいらして下さい」。終始心地の良い接客に、ありがとうと言いたいのはこっちの方だ。たった1500円のサングラス。でも、私にとっては大切な買い物。そういう客の気持ちをわかってくれているような、親切で嫌味のない接客態度。何か必要になったら、又、ここで買おう。知り合いにもこの店を勧めてあげよう。そんなふうに思えたのは初めてだった。
客がいても、店員同士大声で話をして笑ったり、強引に商品を薦めたり、そんな店がたくさんある中で、この店の店員に出会えたのは非常に嬉しい事だった。
 「本当にお世話かけました」。
私は、心の底からお礼を言い、何度かお辞儀をして店を後にした。いつもこんなに良い気分で、買い物ができればいいのに。そんな事を考えながら、強い陽射しを遮るために、買ったばかりのサングラスをケースから取り出した。

タグ(関連キーワード)

コンセプト 審査委員長紹介 お問い合わせ 日本専門店協会サイト プライバシーポリシー
Copy right (c) Japan Specialty Store Association All Rights reserved 2009.