安心して買い物できる店、見つけた

第07回 2003年度 受賞作品
入賞作品
作者名:(氏名割愛)
所属企業:一般

記事(紹介文)

 
 夫の都合でこの町に引っ越してきて2週間、私は気が滅入っていた。2歳2ヶ月の息子のわんぱくぶりが盛んになってきて、なんでも「イヤ」と言うことをきかない。買い物に行けば、私の手をふりほどき1人で走ってどこかに行ってしまう。店の中を捜し回ってやっと息子を見つけたとき、店員さんに「ちゃんと子どもを見とくのが親でしょう」と叱られた。別の店では「子どもが商品を触ったら許さない」と言われたこともある。
 私が始めての土地で戸惑っているように、息子も慣れない生活に興奮していたのだと思う。親として子どもをちゃんと見ていなかったと反省しながらも、もうあの店には行きたくないと思った。知らない人ばかりのこの町で買い物するのもこわい、嫌だなと思い始めていた。
しかし、買い物に行かないわけにはいかない。何軒か店を替えながら買い物していたある日、スーパーと呼ぶには古めかしい小さな店に行ったときのことだ。
 もう店員さんに叱られたくない、息子にじっとしていて欲しい一心で、私は息子にアイスキャンディーを握らせベビーカートに座らせた。はじめ息子はおとなしくカートに乗っていたが、カートにもアイスキャンディーにも飽きたらしく、突然「もう、いらん」と言ってアイスキャンディーを放り投げた。溶けだしたキャンディーが床に落ち、私の手や服もべとべとになった。
 そのとき、レジにいた店員さんがティッシュとぬれタオルを持ちかけよってきた。謝る私に「小さい子連れての買い物って大変やろう、だいじょうぶよ」と声を掛けてくれた。店員さんのこの言葉に私は涙が出そうだった。
 この店は、外観に比べて品揃えが豊富で商品が安くて新鮮だ。加えて店員さんがみな親切だ。いつものように息子が走り出すと、通りがかりの店員さんが「あっち」と息子の行く先を指で教えてくれる。商品の陳列場所を丁寧に説明してくれる。笑顔で客を迎え入れ、私たち親子に声を掛けてくれる。
 店を選ぶとき、商品の価格や品揃えもさることながら、店員さんの対応は重要な決め手となる。子どもがいることで何でも許されるとは思っていないが、子どもがいるとどうしても人に迷惑をかけてしまうことがある。そんなとき力を貸してくれる店員さんがいると助かる。知り合いもなく心細い私にとって、店員さんの温かいまなざしと優しさは心強い支えとなった。引っ越してきたばかりの人が初めて利用する店は、その町を印象づける大切な存在である。この町で安心して買い物できる店、私もやっと見つけることができた。

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