年度別受賞作品
退職や転居等により氏名公表許諾未確認の方のお名前は割愛させていただきました。
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販売人生の親

第08回 2004年度 受賞作品
最優秀作品
作者名:田中順子
所属企業:㈱ドンク 阿倍野近鉄店

記事(紹介文)

 
 「いらっしゃいませ」という言葉を12年間言い続けている。しかし12年前の「いらっしゃいませ」と今の「いらっしゃいませ」とは、大きな違いがあるだろう。思えば私の販売人生は、お客様あってこそだった。
 「すみません、田中さん。お客様が怒っています」。少し泣きそうになった、入って間もない新入社員が私の所に来たのです。その日、店長は不在で、販売リーダーをしている私の出番です。「どうしたん? 何したん?」と聞くと、お客様がパンを選んでいるのを、不粋にも、棚とお客様の間を通ってしまったというのです。すぐに、お客様の所へ行き、「申しわけございません。私、販売リーダーの田中と申します。大変申しわけございませんでした」と新人と2人で深々と頭を下げました。
 「お前んとこの従業員は、どういう教育してるんじゃ。人がパンを選んでるのにひと言も言わんと前通りやがって。後ろいっぱい空いてるやないか」。もっともです。謝るしかありません。「私の教育不足です。大変、申しわけありません。今後このような事がないよう、販売員全員に教育していきます」。
 「そうや、バイトやからって、客がパン買って、もらった代金から給料もらってるって事を、忘れたらアカン! 一人ひとりがな、プロという自覚を持って働らかなアカンで」。少し口調がゆるやかになり、私の胸の名札を見て、「なあ、田中よ。リーダーやったら、そういう事から教えていかなアカンで。大変やけどそれがお前の仕事や」と言い、パンを買って下さり、帰っていかれました。私は、お客様が帰られてから、「そうやで、お客様の言う通りやで。私も気付けるし、みんなで気付けよう。私からも、みんなに言うし、Iさんからもみんなに伝えてな」。お互いにみんなに伝えようと約束しました。
 毎日、来客数3000人にもなる私の店は、いつもパンを出すこと、整理することに気を取られ、パンを選んでいただいているお客様への気配りに欠けていたのです。私が気付かないといけなかったのにと反省し、勉強させてもらったと思い、社員・アルバイト関係なく、みんなでお客様に気配りが持てるよう、努力しました。
 2ヶ月も経った頃、百貨店を通して、「最近ドンクの人、変ったん? 若い子まですごく感じが良くなった」とお客様からお褒めの言葉をいただいたのです。売場の主任から聞いた時は、自分が褒められるより、すごくうれしくて、早くみんなに教えないと、と心がウキウキしました。みんなは聞いている時、とても誇らしげでとても嬉しそうでした。私から見ても、みんなのやる気が伝わりました。
 あの時のお客様はというと、あれからも時々来店して下さっています。そして、いつもひと言、「がんばれよ、田中」と言ってくださいます。「ありがとうございます。がんばります」。と本当にがんばれるのです。12年間働いた今、お客様との接客を通し、販売員の重要性を知り、販売員の楽しさを知ることができたのです。
 まだまだ未熟者なのですが、お客様との出会いを楽しみに成長していきたいです。「いらっしゃいませ」。今は心からそう思います。そして、ふと考えました。私の販売人生、お客様が親じゃないかと。お客様に育てていただいたのだと。私だけでなく、販売員全員の販売人生の親はお客様だろうと思うのです。

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