おじさん販売員奮闘中

第01回 1997年度 受賞作品
入賞作品
作者名:小澤 博
所属企業:㈱玉屋

記事(紹介文)

 
 私は41歳。「おじさん」です。大阪では「おっさん」と呼ばれる人種です。婦人服専門店の店長をしています。
入社当時の数年は店舗で販売員を経験した私ですが、それ以後の十数年は、バイヤーという職種で、仕入れ担当者としてメーカーに出向き、ともすれば年長の男性とばかり会話する毎日でした。その私が1年半前に店長として、販売の最前線を受け持つよう命ぜられました。
 当時わが社は、社長の号令一下、小売店の基本である接客を見直し、「接客強化」を掲げて、一丸となっている時であり、私も店長として、「恐れていては、接客できない」「接客とは、こういうものだ」とか「来店されたお客様には必ず声をかけなさい」など、もっともらしく、偉そうに命令を出していました。
しかし、実際に店舗に立つと、お客様の対象年齢は私の入社当時と変わらないのに、現在の私の年とは倍ほどの開きがあることに気づきました。お客様は、私の高校生の娘と変わらない年齢です。
「やらなければならない」という気持ちとは裏腹に、娘とはしかる時に話をすることはあっても、「ありがとう」と頭を下げることができないのと同じで、娘と同年代のお客様に対してなかなか会話のきっかけをつかめません。店舗というフィールドの中で、サッカー選手よろしく、人のいないスペースへスペースへと入り込む毎日でした。
そんなある日、高校生の2人連れが来店し、運悪く社員も少なかったため、そのフィッティングを受け持つことになりました。話を切り出せず硬い表情の私に、高校生の方が気さくに「これ似おうてる?」と話しかけてくれるのです。とっさの話しかけに、私は思わず「似おうてる。似おうてるけど、上はこんなん着たらもっとかっこええよ」と答えていました。それを機にもファッション談義が30分も続き、スカートをお買い上げの上、翌日も、「お金なかったから、家からもうてきてん」と私の薦めたセーターを買いにきてくれました。それ以来、すべてが吹っ切れました。何も臆(おく)することはない。私が年齢を気にするほど、お客様は気にしていない。
その高校生のおかげで、精神的に少し若くなった気分です。以後、今日はどんな会話が生まれるか、楽しみな毎日となりました。 日々の業務に追われ、「おじさん」は少しずつ、年齢を重ねていきます。でも若い人々と会話をし、気持ちは少しずつ若くなっていくようです。
「さあ開店です」今日も少し若くなるために店のシャッターを開けます。

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