年度別受賞作品
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音楽という名の魔法を使って

第08回 2004年度 受賞作品
入賞作品
作者名:佐藤香奈
所属企業:㈱新星堂 吉祥寺店

記事(紹介文)

 
 私の勤めるCDショップには毎日たくさんの方が訪れます。まさに、「老若男女を問わず」と言ったところでしょうか。中でも私の親しいお客様は、なぜか自分よりも年上のお客様が多いのです。それは私の好きな音楽が60年、70年代の洋楽ということのせいかもしれません。
 私がこの仕事を始めたのは、「大好きな音楽に接していたい」という単純な動機で、以前の私は正直あまり接客が好きではありませんでした。そんな私を変えてくれたきっかけはやはり音楽でした。
 ある日、中年の男性のお客様が私の大好きなアーティストのCDを買われた時のことです。その方は少し気難しそうでいつも必要以上のことは話さない方でした。私は思い切って、「これ最高ですよね!」と話しかけてみたところ、その方は、「君、こんなの聞くの?」と驚いていました。私は思わずそのアーティストのこと、好きな曲の話などを夢中で話してしまいました。そのお客様は私の話を嬉しそうに聞いてくれて、「娘にはいつもこんなのオジサンしか聞かない、ってバカにされるんだよ」と笑ってくれました。
 それからは店へみえると、一緒に音楽話に花を咲かせています。今では、そんなふうにして仲良くなったお客様がたくさんいます。もちろん若い方や女性の方もたくさんいます。私は、毎日そんなお客様たちの顔を思い浮かべて、「これはAさんに、これはBさん好きかも」、なんて考えながら仕事をしています。そして、「あれ、良かったよ」と言ってもらえた時は、本当に嬉しいものです。逆に「イマイチだったな」という時は、「よーし! 次こそは!」と張り切ってしまいます。
 もちろん、商店ですからお客様が店へ来て商品を買って下さることは嬉しいです。でも仲良しのお客様は、「時間が少し空いたから」「待ち合わせまで暇だから」などと言って私に会いに来てくれます。中には、短い昼休みにバイクを飛ばして来てくれたり、お友達をたくさん連れてきてくださる方たちもいます。毎週決まった日にみえるお客様が、先日の台風の真っただ中にびしょ濡れで、「佐藤さんの顔を見ないと一週間が終わらないから」と言って店に来てくれました。そういう時は本当に言葉にならないほどの感激です。
 普通に生活をしていたら決して親しくなることのない、親子ほども年の離れた人や、逆にずっと年下の人たちとの距離を埋めてくれるのは、音楽の持つ魔法のような力だと思います。そしてその人たちとの出会いや、一緒に店で過ごす時間が、音楽以上に私をこの仕事へと引きつけているのかもしれません。
 あるお客様は、いつも帰り際に「また遊びに来るね」と言ってくれます。私はこの言葉が大好きです。店へただ買い物に来るだけではなく「遊びに来る」、そんな気持ちをもっともっとたくさんの人たちに持ってもらいたい。そんな思いで、音楽というとびきりの魔法と一緒に私は今日も店に立っています。

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